現代美術の女王・草間彌生

2020-06-12

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草間彌生 シルクスクリーン 「かぼちゃ」

 

水玉をモチーフにした作品で知られる前衛芸術家、作家の草間彌生は2016年、アメリカのタイム誌で「世界で最も影響力のあるアーティスト」に選ばれました。現代美術の女王とも呼ばれ、日本が生んだ最高の芸術家といっても過言でありません。

 

幻覚・幻聴に苦しめられた少女時代

草間弥生は1929年3月22日、長野県松本市で種苗業を営む裕福な家庭に生まれました。幼い頃から絵が好きで、草花のスケッチをしていたといいます。その一方で10歳の頃から幻覚や幻聴に悩まされていました。統合失調症の幻覚・幻聴から逃れるために絵で表現することをはじめます。これが後の草間弥生作品を象徴する水玉模様のモチーフ(ドット・ペインティング)の原点でした。

 

1945年、「第一回全信州美術展覧会」で並み居る大人たちを押しのけて16歳で入選。松本高等女学校を卒業後は京都市立美術工芸学校で日本画を学び、様々な絵画技法を習得します。しかし古臭い考えの日本画壇に見切りをつけ、松本の実家に戻ってからは寝食を忘れ毎日何十枚も絵を描き続けました。

 

1952年、松本公民館で2回の個展を開きます。1度目の個展に立ち寄った精神科医の西丸四方が草間彌生の絵に感銘を受けて購入し、医学学会で紹介しました。またゴッホ研究をしている知人の精神科医・式場隆三郎の縁で日本橋の白木屋百貨店との繋がりを得ることになります。2度目の個展では尊敬する松澤宥も出品し、パンフレットには松澤と親しい美術評論家の瀧口修造のコメントも寄せられました。

 

1957年に渡米するまで、草間彌生は東京で4回の個展を開いています。白木屋百貨店だけでなく瀧口と関わりのあるタケミヤ画廊でも個展が開催されました。第18回国際水彩画ビエンナーレへ彼女を招待して渡米のきっかけを作ったのも瀧口でした。この頃から草間彌生の知名度は一気に上昇していきます。

 

現代美術の女王になるまで

渡米後はニューヨークを拠点に約16年間活動しました。この時期に親友でパートナーのジョセフ・コーネルとも出会っています。その活動は絵画だけに留まらず、ハプニングと呼ばれるパフォーマンス、映像作品、空間芸術など様々な形で拡がっていきました。反戦・平和運動にも力を注ぎ、その過激さから1960年代は「前衛の女王」と呼ばれました。

 

1973年、最愛のパートナー、ジョセフ・コーネルが亡くなります。傷ついた彼女は日本に帰国し、入院生活を余儀なくされました。しかしそんな失意の日々のなか、草間彌生は新たな創作活動に着手します。自身の幻視体験をもとにした小説や詩集の発表を始めたのです。

 

1978年に処女小説『マンハッタン自殺未遂常習犯』、1983年に『クリストファー男娼窟』を発表し、この作品で第10回野性時代新人文学賞を受賞しました。草間彌生が再び活発な活動をはじめるのは1990年に入ってからです。毒々しさのなかにポップさ、可愛らしさを感じさせる作風は若い女性にもファンが多く、小物やファッション雑貨など多くの草間彌生グッズが発売されています。

 

代表作には定番の水玉のほかに「かぼちゃ」のシリーズがあります。市場で一番人気の図柄で、草間彌生をコレクションする上で最初に購入されることが多いモチーフです。1957年にアメリカの個展で初お披露目した「無限の網」シリーズも彼女のライフワークです。

 

2005年のクリスティーズニューヨークで1962年制作の油彩が約1億2千万円で落札され、2006年には1959年の油彩作品が再び1億円を超える価格で落札されました。世界中で大規模な個展を成功させてきた草間彌生の作品は、存命の女性アーティストで最も高額で取り引きされています。

 

草間彌生は東洋人であること、女性であること、精神病障害者であることなどの偏見を乗り越え、名実ともに現代美術の女王の座を揺るぎないものにしています。

 

命尽きるまで描き続ける

48歳から現在まで東京の精神病院で生活をしながら作品を制作しています。平日は「草間スタジオ」の作業室で1日中絵を描き続けます。スタジオが休みになる週末は病院の小さな部屋で絵を描いています。足が不自由になっても創作への意欲は衰えるどころか一層強くなっています。さらなる高みを目指しつづける草間彌生にとって、描くことは生きることに他なりません。

 

長年の功績が認められ、2002年に紺綬褒章、2006年に旭日小綬章受賞、2009年に文化功労者、2016年には文化勲章を受賞しました。しかし自分の死後も作品に触れた人の心に情熱や希望、意欲が伝われば本望だと彼女は言います。その魂は絵が大好きだった少女の頃のままなのです。

 

ルイ・ヴィトンやユニクロになった草間彌生作品

商業にも活躍の場を広げる草間彌生は2012年、ルイ・ヴィトンとのコラボレーション「ルイ・ヴィトン ヤヨイ・クサマ コレクション」を発表しました。ユニクロがアメリカのニュー食近代美術館(MoMA)とコラボしたシリーズからは草間彌生の作品がデザインされたアイテムが登場。下着メーカー、ワコールのブランドの一つウンナナクールからは草間作品のカボチャや花、水玉がプリントされたランジェリーが発売されました。芸術の枠にとらわれない草間彌生の活動は、これからも私たちに刺激を与えてくれることでしょう。

 

2020.6.11 Staff-S